3-1で勝った。でも、手放しで喜べない
5月16日、甲子園。阪神タイガースは広島東洋カープを3-1で下し、勝利した。
勝った。勝ったのだ。先発・村上頌樹は約1カ月半ぶりの今季2勝目。試合内容も申し分ない。なのになぜ、こんなにもモヤモヤするのか。
答えは分かっている。「あと1アウト」——その一言に全てが詰まっている。
123球、4回まで完全——圧巻の投球内容
まず、村上がどれだけ凄い投球をしたかを語らせてほしい。
初回に佐藤の適時打と大山の犠飛で2点の援護をもらうと、村上は完全に乗った。4回まで完全投球。ヒット一本すら許さない圧巻のピッチングで広島打線を黙らせた。
5回に坂倉に初ヒットを許してからも、集中力は揺るがなかった。6回、7回、8回——スコアボードにゼロを並べ続け、123球を投じながらも腕は振れていた。無四球。5安打。まさにエースの投球。
8回を終えた段階で、スタンドの空気が変わっていたのを感じた方も多いはずだ。「もしかして、完封いけるんじゃないか」と。
9回、2死——そして「あと1アウト」の壁
9回も村上はマウンドに上がった。
1死まで漕ぎ着けた。あと2つ。あと2アウトで今季初完封だ。
しかしここで、連打を浴びた。2死一、三塁というピンチ。小園を打ち取り2アウトとしたあと、打席には坂倉将吾——広島が誇る強打の捕手だ。
「抑えてくれ」「頼む、村上」——全国の虎党が固唾を飲んで見守ったあの瞬間。
左前適時打。1失点。
123球、8回まで無失点で積み上げてきた完封という夢が、この一球で消えた。
「気持ちの整理がついてこない」——その言葉が全てだ
試合後、村上は静かに、しかし確かな悔しさで言葉を絞り出した。
「気持ちの整理がついてこない。まだまだ実力が足りないということ」
「あと1死、あと1球の難しさがあった」
この言葉を聞いて、胸が痛くなった。チームは勝った。村上は勝利投手になった。でも村上の心の中では、「負け」があった。それを隠さずに語れるこの男の正直さに、僕は改めて惚れ直した。
あの降板は「悔しさを植え付けるため」だったのか
ここで一つ、考えずにはいられないことがある。
藤川球児監督は、意図的に村上に「悔しさ」を与えたのではないか——。
もちろん、9回に失点してマウンドを降りたのは采配以前の話だ。でも、あの場面で藤川監督が何を思っていたか。完封を達成して「よかった、よかった」と満足した村上より、あと1アウトで完封を逃した悔しさを胸に刻んだ村上の方が、次のマウンドで怖い投手になる——そう確信していたのではないか。
その証拠に、村上自身がこんな言葉を残している。
「これでいい投球をしていたら慢心してしまう。次もいい緊張感で臨める」
27歳のエースが、自分の完封未遂を「慢心しなくて済む」と前向きに消化している。この精神的な成熟度は恐ろしい。そして、この悔しさを「次への燃料」に変えられる投手が、本物のエースになっていく。
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次の村上頌樹に、期待しかない
3-1の勝利は嬉しい。でも僕の心には、あの「あと1アウト」がずっと残っている。
そして村上の心にも、きっと残っている。
その悔しさを抱えたまま次のマウンドに上がった村上頌樹が、完封をもぎ取る瞬間を——



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